斎藤の小噺

漫画描きの日記

夜半⑨2

疲れてついつい机で寝落ちてしまった。

原稿を進めなければならないが、睡魔に敗北したのだ。鼻から吸い込む空気に少しいい匂いがして目を覚ます。両膝の上に人一人分よりも少し軽いくらいの重みを感じて目を向けると、するとどうだ。

彼女が僕の膝の上に座り、机にもたれて寝ていた。長い癖っ毛が原稿用紙の上に横たわっている。眠りに着く前までは彼女はいなかったハズだ。服装を見るに大学帰りだろう。机の側には彼女のバッグ、そしてこの間貸した単行本が平積みになっていた。合鍵を渡していたし、気分で来ていたのだ。少し嬉しくなって、

「好きだなぁ...」

と呟いて、彼女を抱き寄せてまたペンを握った。

しばらくすれば彼女が起きる。それまでにはこのページを終わらせて、一緒にコンビニでも行ってアイスを食べよう。お互い汚いサンダルを履いて夜道を歩こう。虫の声が今日ばかりはきっと好きになれるかもしれない。山の麓まで続く街灯がもっと好きになるだろう。

しかし、すぐに彼女の髪が邪魔になってきた。

彼女の体の重さ(それに付随する妙な軽さ)を感じながら作業するのは悪くないが、僕の気分としても悶々として集中できない。彼女の匂いは僕には刺激が強すぎる。それに、もし彼女が起きていたらと考えるとフローリングに穴を開け、入りたくもなってしまう。それは勘弁だ。

そう思い彼女を布団に寝かすと、また作業を再開できた。

 

(妄想の残し書き)