斎藤の小噺

漫画描きの日記

昼間.39

知らない場所。

年上であろう女性と歩いている。その人は疲れ果てた眼をしていて、この世の辛酸すべて舐めたという雰囲気を持っていた。おそらく何らか理由があって、身体を売り生計をたてているのだろう。(というのは予想でただ単に貧乏なだけかもしれない。しかし身なりからはそれを想像させないのであった。)

そこは、集合住宅というにはあまりに何もなかった。その女性はそこに住んでいるという。ほとんど衝立でそれぞれの部屋が区切られているだけだ、だがなぜかイチローもそこにいた。日本に来ている時だけの仮住まいだろうか。

見送りは済んだからと帰ろうとすると、彼女は奥の部屋を親指で指差した。男の荒い息遣いが聞こえる。

「あれが終わるまではもう少しいてよ」

彼女はそう言った。いつもの事らしい。しばらくの間、一緒に歩く事にした。

その集合住宅の周りもボロいアパートしかなかった。まるで廃墟だ。だが物はあるし生活音も聞こえる。テレビの音だ。人は住んでいるらしい。

夏の終わり。まだ暑い。もうすぐ日が沈み、夜になるだろう。

彼女は僕の顔を両腕で無理矢理、自分の方へ向ける。はじめに舌が入ってきた。彼女の長い猛攻は僕の口の周りをベトベトにしてしまった。

混乱した僕は、つい押し倒す。

砂利とコンクリートの地面に彼女が横たわり、そこに覆い被さるように僕がいた。

二人息荒く、彼女が何を考えているかわからない。はだけた肩に汗。僕のだろうか、それとも彼女か。彼女は何も言わない。ただ僕を見ている。

...誘惑だ。

彼女の紅潮した頬の上、乱れた髪の隙間に覗く細めた眼がそれを感じさせた。

あてられた僕は、押し寄せる波に必死で抗っていたが、ついに飲み込まれてしまった。

彼女の脚を開き、身体を寄せる。僕の体温か彼女の体温か、湯気が立っていた。濡れている。

やった事はないが、やり方だけは知っている。そういうものだろう。

ついに彼女との隙間は無くなった。

彼女は何も言わない。ただ、細い眼で僕を見下ろして、少しだけ笑っているのだ。

 

幕はこれ迄。そんな夢を見た。